幻影旅団と悪の本質
今回は、幻影旅団がなぜ凶悪な犯罪集団であるのか、少し考えたいと思います。
1、無関係の人間を殺す時
幻影旅団は、過去に緋の目を奪うためだけにクラピカを除くクルタ族全員を惨殺しました。
彼らは自分がほしいものを盗むためだけに、罪のない人を殺すことが当たり前になっている犯罪集団です。
「関わりのない人間を殺す」ということについて、クラピカは幻影旅団の一人と戦った際に以下のように尋ねています。
クラピカ「およそ関わりのない人間を殺す時……お前は
お前は一体何を考え何を感じているんだ?」
ウヴォーギン「別に何も」
クラピカ「クズめ 死で償え」
(ハンターハンター 第9巻 150頁)
クラピカ「……実に不快だ
手に残る感触 耳障りな音 血の臭い
全てが神経に障る
なぜ貴様は何も考えず‼︎何も感じずに
こんなマネができるんだ‼︎答えろ‼︎」
ウヴォーギン「殺せ」
(ハンターハンター 第10巻 16頁)
クラピカは、ウヴォーギンに対して関わりのない人間を殺すときに何を考えているのか、何を感じているのか尋ねますが、ウボォーは何も感じないと答えています。
そして、長年恨みを抱き、復讐の対象であったウボォーを殺す時でさえ、クラピカはその不快さに顔をしかめ、何も感じずに他人を殺すことができるウボォーが理解できませんでした。
2、仲間思い
「関わりのない人間を殺す」ということについて、クラピカに続いてゴンも同じような疑問を抱いています。
残忍な性格であるはずの幻影旅団のメンバーが、仲間のウボォーを必死に探そうとし、彼のことを思い出して涙を流す場面で、ゴンが以下のように問いかけます。
仲間のために泣けるんだね
血も涙もない連中だと思ってた
だったら なんでその気持ちをほんの少し…
ほんの少しだけでいいからお前らが殺した人達に
なんで分けてやれなかったんだ‼︎!
(同上 158、159頁)
ゴンの怒りを解釈すると、「自分にとって大切な仲間であるウボォーのことを思って泣けるような心があるのに、なぜ他人に対して同じような気持ちを抱くことができないのか。」ということだと考えられます。
ここに、幻影旅団を通して作者が描こうとした「悪の本質」があるのではないかと思います。
幻影旅団はその凶悪さとは裏腹に、仲間想いで茶目っ気があり、読者にも非常に人気があります。
ウボォーのことを心配したり、のちにリーダーのクロロを思って助けようとするなど、人間らしい優しさを持ったメンバーも多いことがわかります。
ハンターハンターでは、このように通常では考えられないような残忍な犯罪者が、仲間に対して思いやりを見せ、愛嬌があるように描かれることがあります。
このあとのグリードアイランド編でも、ゲンスルー一味などは似たような描かれ方をしています。
「仲間思い」という点ではゴンと共通していますが、ゴンはノブナガに抱いた疑問をリーダーのクロロにもぶつけています。
ゴン「1つ聞きたいことがあるんだけど
なぜ 自分達と関りのない人達を殺せるの?」
クロロ「ふ…白旗を上げた割に敵意満々といった顔だな
なぜだろうな 関係ないからじゃないか?
あらためて問われると答え難いものだな
動機の言語化か……余り好きじゃないしな
しかし案外…いや やはりというべきか
自分を掴むカギはそこにあるか……」
(ハンターハンター 第12巻 116頁)
ウボォー、ノブナガ、クロロという三人の旅団メンバーに対して、クラピカとゴンが二度も似たようなことを尋ねていますが、その答えはどれもはっきりしていません。
繰り返し共通の内容が描かれていることからも、作者が意図的に台詞を選んでいると考えられます。
その問答からは、三人は「無関係の人間を殺す」ということについてまともに考えたことがなく、疑問を抱くことすらないことがわかります。
幻影旅団を凶悪な犯罪者でありながら、「仲間思い」の人間として描く意味が、主人公たちが抱いた疑問から見えてきます。
3、悪の本質
私たちは自分に関係のある、大切な人に対する思いやりがあればその人は「良い人」だと思いがちです。
しかしどんなに「良い人」に見えても、その人が自分とは関係のない、遠い存在の人間に対しては非常に残酷な態度を取ることがあります。
そのため仲間に対する優しさだけを見てその人を判断することはできないのです。
たとえば、「自分の国の人間が死ぬのは嫌だけど、遠い国の人間がどうなろうと知ったことではない」というような考えを、規模を大きくしたり小さくしたりするとわかりやすいかもしれません。
幻影旅団はその点が非常に極端に描かれており、関係のある人に対しては慈善活動を行ったり、助けたりする優しさを見せ、逆に無関係な人に対してはどんな残虐な行為も何も感じずに積極的に行っています。
旅団の出身は流星街という、世界中のゴミなどあらゆるものが捨てられている場所で、それこそ遠い場所なら関係ないからいいや、の集合体のようなものです。
そこには同じ街に住む仲間との絆はあっても、他者に対する思いやりや優しさは存在しなくても不思議ではありません。
なぜ関わりのない人間を殺せるのか?それは、関係ないから…この答えが彼らの残虐性を表しているとも言えます。
作者は現代の社会に対して、主人公と同じような疑問を抱いているのかな、と思います。
私も自分で書きながら、関係ないからいいやと見捨てたものが数えきれないほどあることに気付かされます。
幻影旅団は非常に魅力的なキャラクターですが、やはり彼らは悪党であり、どんなに仲間思いであっても犯罪集団であることに変わりはありません。それをストーリーの中で無理なく描いていることがすごいですね。
長くなってしまいましたが、幻影旅団が体現する「悪の本質」とは、「他人に対する思いやりのなさ」ではないかと考えます。
次回は、メインであるキルアにまた戻って、ビスケに弱点を指摘されるあたりを読んでいきたいと思います。
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